拝啓

先生、以前話したことを覚えているでしょうか。
僕は、よく怒りを覚えます。日常の出来事でも、社会でも、他人でも、自分にでもそうです。

怒るというと、怒鳴り散らすようなそれを想像するかもしれませんが、そんな発露はほとんど出来たことがなくて、そうではないものです。
何と言ったらいいでしょうか、ただ、静かな怒りです。腹の底で静かに動くようなそれです。風のない湖に一てきの雨が落ちるような、そういうものです。

怒りなんです。それが僕を正常にさせてくれないのかもしれません。家族にすら、露出することの難しい何かです。
怒りはよく、ぐつぐつとしたマグマとかに喩えられますよね。僕のものは少し違うように感じます。すう、と冷たい風が通るような感覚です。ぽっかり空いた穴の縁を風がなぞるような、冷たさです。
そういう怒りです。
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