視野を覆うほどの濃ゆい煙が徐々に消えていき、その中からまず姿を現したのは、尻尾に紫の炎を持つ子狐を肩に乗せた少年だった。少年は頭上の何もない宙に浮かんでいる看板に目を通し、やや呆れながら一つ小さな溜息をついた。
「これはこれは露骨な……」
「どこだここは!?」
ついに全て大気と一体化していった煙が残したのは、詰襟を身に纏ったもう一人の少年。その姿よりも早く轟く声は驚愕に満ちていた。
それも無理はない。高所に浮いている看板以外にも、周りは乱雑に倒れている鳥居に石灯篭、膨らんだ土の上に刺さった卒塔婆、そして赤い漆から見るに神社の残骸と思われる瓦礫がそこら中に散らかっている。
「いちゃつくにしても、こんな場所では落ち着かないねぇ……僕は出られる所がないか探してみるから、狐狸くんはここでじっとしててくれるかい?」
「いやなんでオレがお前に従わないといけないんだ。ついさっきまで学校の屋上で一戦を交えた同士だが?」
「うんうん、狐狸くんが持ってきた得体のしれないお札が出した煙に包まれて、ここに来たんだよね、僕達。あ、もしかしてそれが狙いだったのかい?」
「ち、違うぞ!! 確かにおじさんはこれならどんな妖をも降伏させられるって言ったはず……!」
上着のポケットから出した紙の領収書とでかでかとした文字の下に、「Hyper Ultra Sugoi Ofuda」というふざけた文字列が並んでいる。
「相変わらず横文字に弱いねぇ。やっぱり騙されたのではないかい? 本来人を騙す側であるはずなのに」
「オレは!! 妖怪退治屋だ!! 人を騙しはせん!! 狐狸はこーどねーむというもので、」
「はいはいはい、ではそんな格好いいコードネームを持つカッコイイ~狐狸くんとの戦いを続けるためにも、まずはここから出ないと、ね?」
宥めるために金髪に置かれたであろう大きな手はしかし、本人には好ましく思わないのか、ぱっと振り払った。
「はいは一回だ! オレも探すぞ」
「……気を付けて。嫌な予感がするんだ」
「……お、おう」
ライバルに気を遣われて言葉にならない気分になった詰襟の少年は、軽い返事の後、黙々と周りを調査しはじめた。妖怪退治屋として過ごしてきて、瘴気に覆われた墓などを調査するのも日常茶飯事になったが、こうしてライバル――餓者髑髏をはじめ、様々な妖怪を統べる大妖怪の神代類と共に行うのは初めてだった。
「しかし、妖怪なのに神代とな……」
「ん? 今何か言ったかい?」
「なんでもないぞ」
少年自身にも天馬司という、未来のスター(自称)に相応しく輝きに満ちた名を持っている。だが「神」に勝てるかというと少し返答に躊躇ってしまう。否、退治屋の頂点を目指し、人々から笑顔を奪う妖怪をいずれ全て降伏させる男だから、神と名乗るこの大妖怪も、きっといつか、
「司くん!!」
「なんだ!?」
と、一人で想像に耽っていたら、後ろから発された声にびっくりした司。何か妖怪でも出たのか、いやでも類も妖怪だが!? と兎に角急いで振り返ったら、目に映った光景が予想と違いすぎたもので、拍子抜けてしまう。
「……なんだ、その手に持っているのは」
「

」
「なんか言ったらどうだ」
「いやあ、瓦礫を一つどかしたらこの子が出てきてねぇ。何やら食料を求めているように見えるけれど、僕は何も持っていないから狐狸くんに聞いてみようと思って」
「遊んでないで早く出口を探さんか!!」
新しい玩具を見つけた子供のように目をキラキラとさせたこの大妖怪は一体なんなのだと思う。ちゃんとしているか監視するようじっと見ていたら、「フフフフ」と楽しげな笑い声をこぼしながら、食器を持っている「ソレ」を降ろした。「ソレ」は何も言わずぴょこぴょこ跳ねながら、瓦礫の隙間に入って消えていった。
「ふう」
これで調査を続けられる、とついさっきまで調査していた石灯篭の裏を覗こうとすると、
「っ司くん!!!」
「今度はなんだ!?!?」
また聞き覚えのある声が耳に入り、もう一度振り返ろうとした瞬間に類はすぐ目の前に現れた。え、と声に出すよりも早く司の視界は揺らぎ、
「失礼するよ」
とその言葉を理解する前にはもう、司の体は随分離れた所に移動していた。背中とひざの裏で何かに支えられている。というより、もう体丸ごと何かによって地から浮かされている。
「……は……?」
「怪我はないかい」
「え、あ、だ、大丈夫、だ……? いや何故オレはドラマに出るヒロインのように抱えられているんだ!?」
咄嗟のことでいつの間にか大妖怪の首に回していた手を慌てて引っ込む。は、肌が少しひんやりとしていた……なんて思っている場合ではない。
「危ないから暴れないでもらえるかい? ほら見て、さっきいた所」
「むむむ?」
「な、なんだあれは……!?」
手が空いていない類が顎でくいっと示す先に、見たこともない生き物がいる。動いている。何やら怒っているような表情のものもいる。
「僕達を侵入者と認識したのか、さっき君に襲い掛かりそうだったんだ」
「か、感謝する……不本意だが……」
「フフフ、狐狸くんのそういうところ、僕は好きだよ」
「す……!?」
「あっ」
「どどどどどどうした」
類の言葉をどう受け取るべきか考えている司を待たずに、また新しい発見があるのか、小さく声が漏れた類の目の先を追ってみる。
逃げてきた大きな瓦礫の後ろに、扉があった。
「……扉があるな」
「……扉があるねぇ。これで出られるかはわからないけれ、」
「そんなの開けてみたらいい!!」
「狐狸くん!?」
好機と見て急いで類の腕から飛び降りた司は、少し熱くなった頬を誤魔化すためにも急いで扉に手をつけた。すると意外と扉はあっさりと開き、これで脱出できると思った二人は嬉々と光を放つ門を潜るが、その眩しいほどの光で二人は扉の上のもう一つの看板に気が付かなかったのだろう。
再び目が開けないほどの光を抜けたら、そこは先ほどの乱雑を極めた奇妙な場所だったが、見知らぬ生き物はもういない。代わりに、一番大きく、倒れてながらもちゃんと人が通れそうな鳥居から、同じような光が見えた。
「多分そこから出られるのではないかな」
「よかったな!! ってなんでオレはまたヒロインのように抱えられているんだ!!」
「えぇ? 司くん僕とのキスで腰が抜けちゃって歩けないからだろう?」
「だー!!! 変な説明の仕方をするな破廉恥なやつめ!! タヌキとキツネに運んでもらう!!」
バタバタと類の腕から脱出した司は、ついさっき傍について、ふよふよ宙を浮いでいる二匹にもたれかかるが、結果、三人(一人と二匹)まとめてゆっくり地へ倒れるだけであった。
「どういうことだ!? 弱いな!?」
「残念、まだその子たちにそこまでの力はないよ」
「な、オレの力が足りないのか……?」
「いいや、式神みたいな形だけど、あくまで僕の使い魔だからね、僕の妖力をもらわないと」
「お前の妖力をもらうって……」
嫌な予感がしながらも余裕なそぶりで立っている紫の狐を見ていると、その狐はにっと月色を細めながら妖しく微笑んだ。
「うん、キスでね」
「嫌だ!!!」
「フフフフ。まあ今ある分を使い果たしたら、欲しくて欲しくてたまらなくなるだろうから。待ってるね♪」
「オレの体になんてことを!!!! くっ!! 家に帰ったらなんとかして……まずは出るぞここから!! おんぶしてくれ!」
「はいはい」
嫌がるのか助けを求めたいのか、声だけは大きい司のリクエストを無視して、その体を横に抱えて、二人で鳥居を潜った。
会話以外全部字下げしてるつもりだけどキス部屋(キス部屋)以外全部消えてるネ~!?なるほど🤔
今回使ったここだけの機能を説明すると
見知らぬ生き物たち:スタンプ機能
キス部屋:Plurk Paste機能(長文を別途張り付ける機能)
最後に最後のパートの太字:簡単な文字設定機能(斜体や消去線とかもできる)
にゃん
2 years ago @Edit 2 years ago
【類】
とても強い大妖怪。強すぎるが故に、そして案外そんな悪さしてないので誰も退治しようとしなかった。
高校生の新米退治屋が現れたと聞き見に行ったら「お前を絶対オレが退治するぞー!」と、弱いのに怖気なくえいえい~!!と追っかけてくるから興味を持った。後から以前助けた兄妹の兄だと思い出して運命に感動してる。キス部屋の一件でもっと手放したくなくなった。普段「狐狸くん」と呼んでるが感情昂ったりすると「司くん」って名前呼んじゃったりする。
時々司の高校を襲うふりをしては屋上まで誘導してじゃれあってる。
にゃん
2 years ago @Edit 2 years ago
【司】
妹が下っ端妖怪に襲われかけた時に自分で助けられなかった(※後で通りかかった類が助けたが、姿は見せてないので二人にはわからない)ことが悔しくて妖怪退治屋を目指し始めた。
悪さをして人間から笑顔を奪う妖怪全部退治するのが目標だが、退治といっても消えさせるのではなく、もう悪さしないように術をかけたり、友達になったりしてる。HAPPY WORLD。
類がよく悪戯してくるから退治だーーーーーー!!って追いかけてるが、人を傷つけるような本当に悪いことはしないと認識しているので嫌いではない。