“生まれ変わり”が輪廻転生だとしたら、その前提にあるのは“死”だ。
身軽な独身者でもあるので、引っ越しも厭わない。むしろ楽しくさえある。
ただ引っ越しのたびに苦労するのが、膨大な量の本だった。処分しようと決意するのだが、毎度失敗する。
新しい部屋に越してから、週末に少しずつ本棚にしまおう、と思っているのだが、整理しながら読みふけってしまって、まったく進まない。
「女の“また今度ね”と、男の“大丈夫だよ”は信じるなって、学校で教えてないの?」
「実際どうだったかは……」
伏見は無表情のまま続ける。
「……どうでもいいんだよ」
僕の知らないところで、グルグルと回ってつながっている。
学校を愛する校長であることを、アピールするデモンストレーションのように見えた。
罪も真実も正義も、伏見に無意味なのかもしれない。
もともと相手の気持ちを推し量るのが得意ではなかったが、怒りがその傾向をますます強めていた。
腹が立ったということではない。怒りに任せて部屋を飛び出したわけでもない。
伏見や正田や品川、神崎の言動は、“転覆”している保利にも“理由”が透けて見えた。伏見たちは“自己防衛”しているのだ。
だが保利はどうしても飲み込めないことがあった。湊と依里の嘘だ。湊の本心を聞けるかもしれない。そう思った瞬間に、保利は駆けだしていた。
やがて、その音が象の鳴き声のように聞こえてきた。
保利は、初夏の風に吹かれながら、その音に聞き入っていた。
“生まれ変わる”。
それは現世の肉体が滅び、来世で別の肉体に生まれ変わること。
“輪廻転生”だ。
「僕が友達になるよ」
「友達は友達だけど……」
「みんなの前で話しかけないで」と湊は依里に釘を刺した。だがすぐに湊は後悔した。依里がひどく悲しげな顔をしたのだ。湊は胸を締め付けられた。
あまりに突飛で不思議な話なので、作り話だと思っていただけだ。
だが莉沙は強かった。
「はあ?」と強い調子で言って、大翔をにらむ。
ご意見は真摯に受け止め…今後適切な指導をしてまいりたいと考えております。
「そんなの、しょうもない。
誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない。しょうもない。しょうもない。誰でも手に入るものを幸せって言うの」
生まれ変わったかな?
そういうのはないと思うよ
湊が笑うと、依里も笑った。
ないか
ないよ。もとのままだよ。
そっか。良かった」
最高の笑顔を見せた。
僕たちの身体も“脳”も、もとのままだ。
だって星川くんの笑顔はあんなに美しい。